川村 博司 他

財団法人三友堂病院医学雑誌 Vol.11 No.1

原著

胃癌無治療症例の経過と生存期間および終末期における緩和的治療に関する検討

The study of clinical course and survival time with no anticancerous therapy
and the evaluation of palliative therapy in patients developing gastric cancer

                      三友堂病院 外科・緩和ケア科
川村 博司、横山 英一、牧野 孝俊、仁科 盛之、加藤 佳子
三友堂病院 消化器内科
鈴木 明彦、冨田 恭子
三友堂病院 地域緩和ケアサポートセンター 看護部
黒田 美智子、吉田 美代子

Key words: 胃癌、インフォームド・コンセント、自然史、緩和的治療、パフォーマンス・ステータス

Hiroshi Kawamura1),Eiichi Yokoyama1),Takatoshi Makino1),Moriyuki Nishina1),
Yoshiko Kato1),Akihiko Suzuki2),Kyouko Tomita2),Michiko Kuroda3),Miyoko Yoshida3)

1)Department of Surgery and Palliative Care, Sanyudo Hospital
2)Department of Gastroenterology,Sanyudo Hospital
3)Department of Nursing,Sanyudo Regional Palliative Care Support Center

要約


当院緩和ケア科にはさまざまな経過を辿った胃癌患者が受診する。終末期を迎えた患者が多いが、その中には、早期癌を発見されたにも関わらず、全く抗がん治療を受けずに自然の経過を送ってきた例もある。また、終末期ばかりではなく、さまざまな病期で来院し、治療を選択するのに迷い悩んでいる例も多い。そこで、今回、胃癌の治療方針を決定する際に患者に提供する情報として必要となる胃癌の自然経過(自然史)に関して、2005年5月から2010年4月までの5年間の当院胃癌死亡症例104例を対象に、早期胃癌、Stage
ⅠA、ⅠB(以下St.Ⅰ)胃癌症例のうち無治療で経過した5例と無治療で経過観察後に終末期となり緩和的手術などが行われた2例において、無治療が選択された理由と生存期間、およびSt.ⅠからⅢC、Ⅳに至るまでの期間、また、St.ⅢC、Ⅳ胃癌63例において、浸潤・転移別生存期間:癌による苦痛や生活の質(quality of life、以下 QOL)の低下が出現した後の生存期間、およびこれらに対する緩和的治療としての手術、化学療法、内視鏡的ステント留置術の意義について検討した。その結果、早期またはSt.Ⅰ症例のパフォーマンス・ステータス(performance status、以下PS)はすべてGrade 0~2であった。治療が可能な全身状態でも無治療となった理由は、患者の意思(4例)、家族の希望(1例)、合併症(2例)、認知症(1例)(重複あり)であり、これらの生存期間は平均4.2年であった。またT1からT2~4となるまでの期間は平均3.2年で、低分化型は進行が早かった。St.Ⅰであれば、高齢や認知症であっても、全身状態(PSと認知症の程度)評価を行った上で、根治を目指して適切な治療を積極的に行うべきであると考える。一方、PS3以上のSt.ⅢC、Ⅳの予後は、T4約1年、領域リンパ節転移以外のリンパ節転移(以下M1 LYM)、肝転移(以下M1 HEP)、腹膜転移(以下M1 PER)ともに3~4か月であったが、PS 0~2のSt.ⅢC、Ⅳで、手術、化学療法、ステント留置を行った症例の予後は、T4約1年6か月、M1 LYM約1年、M1 HEP 1年5か月、M1 PER約1年であった。St.ⅢC、Ⅳに対する手術、化学療法、ステント留置は、PS 0~2では、経口摂取再開、嘔気・嘔吐改善、在宅療養期間の延長といったQOLの向上に結びつき、緩和的治療として有効であると考えられた。