川村 博司 他

財団法人三友堂病院医学雑誌 Vol.12 No.1

Short Communication

低侵襲血行動態モニタリングが周術期の呼吸循環管理に有用であった下部消化管穿孔性汎発性腹膜炎の一症例
A case indicating the efficacy of the minimally invasive hemodynamic monitoring for the perioperative respiratory and circulatory management of diffuse peritonitis due to colonic perforation

川村 博司1)、横山 英一1)、尾形 貴史1)、仁科 盛之1)、遠藤 智子2)、荒木 真紀2)

1) 三友堂病院 外科
2) 三友堂病院 看護部 集中治療室

Key words:低侵襲血行動態モニタリング、中心静脈血酸素飽和度、早期目標指向療法、下部消化管穿孔、敗血症性ショック

Hiroshi Kawamura1), Eiichi Yokoyama1), Takashi Ogata1), Moriyuki Nishina1), Tomoko Endo2), Maki Araki2)

1) Department of surgery, Sanyudo Hospital
2) Nursing department, Intensive care unit, Sanyudo hospital

要約


下部消化管穿孔による汎発性腹膜炎を生じて敗血症性ショックに陥った症例に対して行った周術期管理について報告する。
症例は、併存疾患として慢性閉塞性肺疾患、閉塞性動脈硬化症、狭心症、うっ血性心不全、C型慢性肝炎など重症合併症を有した70歳代、男性胃癌患者であり、胃全摘術を施行したが、術後13日目に上行結腸憩室穿孔による汎発性腹膜炎を生じ、敗血症性ショック(ASA-PSC Ⅳ)となった。発症約3時間後に手術(上行結腸切除、腹膜洗浄・ドレナージ、回腸瘻造設術)を施行した。呼吸・循環不全を生じ、術後は集中治療室で低侵襲血行動態モニタリングを用いて術後管理を施行した。われわれは、ハイリスク症例に対して、中心静脈血酸素飽和度(ScvO2)を70%以上に維持する早期目標指向療法を基本的に行っているが、ScvO2の過剰な上昇は組織酸素代謝障害を示している可能性があると考えている。本症例では、術後3~4日目に、腹腔内遺残膿瘍、肺炎を伴う急性肺障害、尿量低下、高ビリルビン血症を呈し、乳酸値は正常値上限となり、敗血症性ショックを呈したが、この病態が起こる初期の段階で、Warm shockとなってScvO2 が80~90%に上昇した。この変化を組織酸素代謝障害によるものと捉え、早期に容量負荷やステロイド、カテコールアミンの投与、また、抗菌剤の変更などによって対応したことによって、本症例では速やかな血行動態の回復と安定に結びつけることができた。
重症敗血症症例では、組織酸素代謝障害に対する対応の遅れが更に重篤な病態につながる可能性が高く、状態の変化を早期に察知し、その後、迅速な対応につなげることは、病態改善の重要なポイントになると考える。本症例においては低侵襲血行動態モニタリングにより、ハイリスク症例の術後の複雑な病態、また、術後併発症に対して迅速かつ適切に対応することができた。