黒田美智子 他

財団法人三友堂病院医学雑誌 Vol.10 No.1

原著

終末期がん患者の自己の存在と生の意味の復元への理論的アプローチ-スピリチュアルケアのマニュアル化の試み-
Theoretical approach for the reestabilishment of the significance of existence and living of a patient with terminal cancer-An attempt to make a manual for spiritual care-

三友堂病院看護部

黒田美智子、木村裕子、佐藤由美、平美紀、大沼未希、吉田美代子

三友堂病院臨床心理室

吉田満美子

三友堂病院医療相談室

三ケ山実千夫

三友堂病院緩和ケア科

川村博司、加藤佳子

Key words: スピリチュアルペイン、スピリチュアルケア、スピリチュアルケアマニュアル、村田理論、緩和ケアチーム

Michiko Kuroda1), Yuko Kimura1), Yumi Sato1), Miki Taira1), Miki Ohnuma1), Miyoko Yoshida1), Mamiko Yoshida2), Michio Mikayama3), Hiroshi Kawamura4), Yoshiko Kato4)

1)Department of Nursing, Sanyudo Hospital
2)Department of Clinical Psychology, Sanyudo Hospital
3)Department of Medical-Social Working, Sanyudo Hospital
4)Department of Palliative care, Sanyudo Hospital

要約

 スピリチュアルケアに関する研究の現状は、スピリチュアリティやスピリチュアルペインの概念の探求から、実践の体系化と検証を目指す段階に入ったばかりであり、ケアの指針やケアの効果の指標も未だ模索中である。その状況下において村田らによる時間存在、関係存在および自律存在の3次元からなるスピリチュアルペインに関する理論(以下村田理論)は、看護師によるケアの指針の基礎となり、臨床に結びついている点で高く評価され、本理論に基づいた教育、訓練が普及している。
今回私たちは、村田理論の枠組みに従った援助プロセスを用いてスピリチュアルペインを分析し、症状緩和、生活援助、療養環境の整備等の“基盤となるケア”に加えて、“援助的コミュニケーション”の実践そして、“他者との関係性を強め、生きるための拠りどころを見出すための援助”を柱とするケアプランを作成して、多職種スタッフによるチームケアによって実施していく三友堂病院緩和ケア病棟編スピリチュアルケアマニュアルを策定した。そして、自己の存在と生の意味を喪失しつつあった終末期がん患者に現出したスピリチュアルペインの分析とケアをこのマニュアルを用いて実施した。個別的、物語的な性格を有するスピリチュアルペインに対する患者へのケアがそれまで非計画的、対症療法的であったのに対して、スピリチュアルペインを系統的、理論的に分析してケアプランを導き出すことができた。マニュアルに基づいて行ったさまざまなケアは、患者の生きる力、生きる希望、また、生きる意味を見つけ出そうとする機能であるスピリチュアリティを復元し、患者に再び自己の存在意義と生の意味を意識させることに結びつき、安心、安寧をもたらした。すなわち、私たちの策定したスピリチュアルケアマニュアルの妥当性が実証されたものと考える。このマニュアルは今後、“生”の意味付けと“死”の受容に苦悶する終末期がん患者のスピリチュアルケアに有用な指針となるものと考える。