渡部芳紀 他

2008年3月13日

財団法人 三友堂病院医学雑誌 Vol.8 No.1

原著

緩和ケア病棟における在宅移行困難症例の検討-緩和ケア病棟カンファレンスから抽出された緩和ケアの課題とその対策に関する考察-
Examination of cases with difficulties converting to home medical care in the palliative care unit of Sanyudo Hospital -Consideration about problems of the palliative care indicated in palliative care unit conferences and measures against the problems-

三友堂病院看護部

渡部芳紀、黒田美智子、吉田美代子

三友堂病院緩和ケア科

横山英一、川村博司

三友堂病院医療相談室

加藤玲子

山形大学医学部麻酔科

加藤佳子

Key word: 在宅ケア、緩和ケア病棟、カンファレンス、医療連携

要約

 平成17年5月の緩和ケア病棟開設から平成19年7月までの2年3か月間に当病棟に入棟した147症例のうち、症状コントロールが達成され在宅準備が十分になされた後に、在宅療養に移行した症例が19例、移行できなかった症例は9例であった。移行できなかった症例は全て3か月以上の長期入院を余儀なくされていた。今回、在宅移行の困難であった症例を検討することによって見出された地域における緩和医療の課題とその対策について考察したので報告する。
在宅移行を困難にした原因は、自宅での介護や看取りに対する家族の不安、独居あるいは同居者の介護力不足、そして家族関係の問題であった。これらの原因を排除し、在宅移行を推進していくために、個人の意思を最も優先すべきであること、がんと向かい合うときには、患者・家族ともに、できるだけ正確な病名、症状、予後の認識を持つ必要があること、痛みはとることができること(麻薬に対する誤解・偏見を拭い去らなければならないこと)、また、緩和ケア病棟はじめ病院へ入院する目的は、看取りばかりではなく、通常の生活に戻れるようにする症状コントロール、介護者のレスパイトケアが中心であることなどについて是非一般に広めていかなければならない。同時に、在宅ケアには、患者を支える存在、また、患者ばかりではなく家族を支え、時には家族に代わって患者を介護する存在、すなわち、在宅医、訪問看護師、地域の薬剤師、臨床心理士、MSW:medical social workerあるいは介護士等の医療・福祉・介護スタッフが必要である。そして、医療の基点となる診療所・在宅医の確保と在宅医の緩和ケアの知識・技術の向上を図ること、また、医師以外の医療・福祉・介護スタッフ、すでに在宅ケアに携わっていても緩和ケアに対する理解の不足しているスタッフに対する教育、指導を行うことが重要であると考えられた。