小笠原 未希 他
財団法人三友堂病院医学雑誌 Vol.12 No.1
症例報告
音楽療法のスピリチュアルペインに対する有効性を示したがん終末期の1症例
A case showing the effeicacy of the music therapy for spiritual pain in terminal cancer
小笠原 未希1)、黒田 美智子1)、吉田 美代子1)、川村 博司2)、加藤 佳子2)
1) 三友堂病院 地域緩和ケアサポートセンター 看護部
2) 三友堂病院 地域緩和ケアサポートセンター 診療部
Key words:音楽療法、がん終末期、スピリチュアルペイン、スピリチュアルケア、
緩和ケアチーム
Miki Ogasawara1), Michiko Kuroda1), Miyoko Yoshida1), Hiroshi Kawamura2), Yoshiko Kato2)
1) Nursing department, Sanyudo regional palliative care support center
2) Medical department, Sanyudo regional palliative care support center
要約
スピリチュアルケアとしての音楽療法の有効性を示した症例を経験したので報告する。
症例は70歳代の男性で、膀胱癌に対する膀胱全摘、代用膀胱造設術後の腸骨リンパ節転移に対して化学療法が行われていた。患者には病名、症状、予後がほぼ正確に告知されていた。元来積極的、社交的であった患者が癌の進行とともに自閉的となり、自信を喪失しつつあった。関係性と自律性の喪失によるスピリチュアルペインが表出していた。この時期に音楽療法が開始された。患者が過去に親しんでいたハーモニカを選択し、音楽会での演奏を目標に据えて施療を行った。音楽会で患者は、達成感、満足感を覚えた。音楽会後、日常生活や治療に対する積極性が戻り、退院した。その後、全身状態が低下し、再入院し、死亡直前期を迎えた。家族が、前の入院で患者が音楽によって生きる力を取り戻したことを思い出し、ボランティアギタリストによるギター演奏を希望した。家族や親族らが患者を囲んでハーモニカや音楽会の思い出を語り合った。ギター演奏後、家族に見守られて永眠した。患者の葬儀では音楽会のビデオが上映された。
本患者は、音楽を通じて他者とのコミュニケーションを活発に図ったことにより関係性を回復し、音楽への取り組みと音楽会の大勢の前での演奏により勇気や自信を取り戻して自律性を回復した。音楽療法は、他者との関係性を強め、いきるための“拠りどころ”となる援助としての役割を果たした。その結果、スピリチュアルペインの原因となっていた関係性、自律性障害が解決され、生きる意味を再び見出すことができるようになってスピリチュアリティーが復元された。このことは、QOLの向上と家族ケアわらにグリーフケアにもつながった。